Fleuve Niger

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1. ニジェール川流域の概要
ニジェール川は、ギニア東部のフータジャロン高地とコートジボワールの最北西端で始まる全長約2,000kmの大河である。流域の平均降水量はギニアで1,635mm/年、コートジボワールで1,466mm/年と流域内で最も多い。ニジェール川は、サヘル地域の厳しい気候の中で、内陸デルタを形成し、貴重な植生や生態系を維持している。流域はマリ、ニジェール、ナイジェリアを経てギニア湾に流れ込むが、ナイジェリアに到達する時点で水量は上流のギニアを出発した時よりも少なくなっている。
2. 気候・人口・降水量の特徴
ニジェール川流域の人口は約1億人で、年率約3%で増加中。特にナイジェリアに多く、6,700万人が居住し、マリとニジェールにはそれぞれ約800万人いる。1950年代以降、西アフリカでは都市化が急速に進み、流域内の主要都市としてニアメイ(ニジェール)やバマコ(マリ)が挙げられる。水資源へのアクセスは流域全体で課題となっており、今後の人口増加により水需要は増大する見込みである。
降水パターンは地域によって大きく異なる。流域面積の5%未満を占めるギニアは流域全体の水供給の約3分の1を担い、上・中流域の主要な水源である。マリは流域面積の約4分の1を占めるものの、降水量は年約400mmと少なく、蒸発散により多くの水を消費している。ニジェールとナイジェリアはそれぞれ流域の約4分の1を占めているが、ニジェールの降水量は300mm未満と非常に少なく、河川への流入はほとんどない。一方、ナイジェリアの降水量は流域内で1,200mmに達し、沿岸部近くでは2,000mmを超える。
3. 水質と地下水資源
流域内の都市では工業・生活排水の収集および処理施設が十分に整備されていないため、水質汚染が深刻である。農業からの肥料流出も複数地点で検出されている。特にニジェール・デルタの油田地域では、数百万バレルにも上る石油流出事故が頻発し、環境問題を引き起こしている。
地下水資源としては、中・下流域に高品質な帯水層が存在し、特にイュレメデン帯水層システムが注目される。ナイジェリアの一部にも良質な帯水層が存在するが、資源の再補給率や正確な分布の調査は不十分である。地下水資源の持続的開発には、資源のマッピングやモニタリングの体制整備、管理能力の強化が不可欠である。
4. 干ばつの影響
1970年代から1990年代にかけてサヘル地域で降水量の著しい減少が見られ、特に1970年代初頭と1980年代初頭に深刻な干ばつが発生した。1980年代半ばには3年連続で降水量が30%以上減少し、ニジェール川の流量は平均の3分の1以下にまで落ち込んだ。この流量減少は降水量の減少率の約2倍の速度で進行した。
興味深いことに、降水量の減少に伴い地表植生の減少や土地利用の変化により、地表流出が増加し、地下水の補給率が上昇して水位が上がる地域もあった。これにより池の数や大きさ、持続時間が増加し、浸透量が増えたと考えられている。
干ばつは飢饉や人々の移動を引き起こし、生活基盤を破壊した。過去数百年の気候変動パターンから干ばつの周期性が示唆されており、大西洋やインド洋の海面水温の変動が西アフリカの降水パターンに影響を与えていると考えられている。地球温暖化が今後の降水にどのように影響するかは不確実であり、正確な予測は困難である。
5. ダムと開発プロジェクト
ニジェール川流域の開発は水力発電、灌漑、洪水管理などの持続可能な水資源プロジェクトに依存している。既存のダムはマリのセリンゲ、ナイジェリアのカンジ、ジェッバ、シロロなどで、大規模な水力発電を提供している。建設中のトッサイェダム(マリ)や計画中のカンダジダム(ニジェール)もある。
マリの灌漑は主にセリンゲダムと二つの分水ダム(ソトゥバ、マルカラ)から供給され、約114,000ヘクタールの灌漑用地があるが、実際に作付けされているのはその一部に過ぎない。トッサイェダムは年間150GWhの発電能力と約8,300ヘクタールの新たな灌漑用地をもたらす予定である。
カンダジダムはニアメイの飲用水供給を支え、電力供給を50%増加させる見込みだが、約35,000人の移転と7,000ヘクタールの農地喪失などの社会的影響も伴う。これらの負の影響は初期段階で認識され、緩和策が計画に盛り込まれている。
さらに、ギニアのニアンダン川に建設予定のフォミダムはセリンゲダムの約3倍の貯水容量を持つが、下流への影響が大きく、特に内陸デルタの稲作生産が約40%減少する可能性がある。利益の多くは上流側に集中し、下流側には不利益が偏ることが懸念されている。
6. ファギビン湖の現状と課題
ファギビン湖はマリ北部のサヘル亜砂漠地帯に位置し、かつては西アフリカ最大級の湖沼(約590km²)であった。年降水量は約250mmで、雨季は6月中旬から3~4ヶ月続く。1970~80年代の大干ばつで湖は干上がり、農業、漁業、乾期の放牧など地域住民の生活基盤が崩壊した。
湖への水は主にニジェール川からの二つの導水路を通じて供給されるが、干ばつ期にこれらの水路は砂や植生により閉塞した。近年は改善が進み、2010年の雨季には湖面の約6%にあたる35km²の水たまりが形成された。マリ政府は国連環境計画から1,500万ドルの支援を受け、水路の浚渫作業に取り組み、周辺の農業活動も2006年から2010年にかけて顕著に回復している。
7. 内陸ニジェールデルタの重要性
内陸ニジェールデルタはマリのバマコから約400km北東に位置し、ニジェール川が無数の支流に分かれバニ川と合流する湿地帯で、西アフリカ最大の湿地である。デルタは約100万人の生活を支え、肥沃な漁場、牧草地、農地、豊かな生態系の生息地を提供し、ラムサール条約により国際的に重要な湿地として認定されている。
デルタの水収支は複雑で、地下水との連携が強く、干ばつ後に正常な降水が戻っても地下水位の回復まで湿地の水量が十分に戻らない。水の約48%は蒸発によって失われる。デルタの水は主にギニア高地上流の降雨と、コートジボワール北部のバニ川から供給され、デルタ内の降雨はわずか5~10%の寄与に過ぎない。
1970~80年代の干ばつではデルタの洪水が大幅に減少し、生態系や地域社会に深刻な影響を与えた。2009年の衛星画像では、降水の正常化に伴い洪水も回復傾向にあることが確認されている。
8. ニジェール沿岸デルタの環境問題
ニジェール沿岸デルタはニジェール川がギニア湾に流れ込む地点に形成された三角州で、約3,100万人が居住する。約20,000km²のマングローブ林を含む豊かな生物多様性を有する自然環境であるが、ナイジェリアの石油・ガス産業の中心地でもあり、896の油井と多数のパイプラインが存在する。
これに伴い、数千件の油流出事故が発生し、合計で300万バレル以上の原油が環境に放出された。また、石油採掘による廃水や天然ガスのフレアリングからの酸性雨も水質悪化の原因となっている。農業の表面流出や化学肥料の過剰使用、未処理の生活排水や工業排水、適切に管理されていないゴミ処理場も水質汚染を悪化させている。
これらの環境問題はデルタの生態系と住民の生活の双方に深刻な影響を及ぼしている。